〇 そもそも「オルタナティブ」とは?
オルタナティブ。この言葉を聞いて何を思い浮かべますか?
例えばオルタナティブ・エネルギー。代替エネルギーのことです。石炭や石油といった、伝統的なエネルギーの代替、つまり太陽光や風力といったものを指します。
例えばオルタナティブ医療。代替医療のことです。通常医療とは見なされていない、漢方治療、アロマセラピー、温泉療法といったものを指します。
中年以上の音楽ファンであれば、オルタナティブ・ロックという言葉になじみがあるでしょうか。定義はあいまいですが、保守本流のロックと一線を画した、目新しいロックサウンド全般を指していたケースが多かったように思われます。
オルタナティブは本来、「代替の」「代替のもの」というような意味がありますが、そのような翻訳や、以上のような名詞句として覚えるよりも、「オルタナティブ」という英語が本来持つ語感から理解した方がいいでしょう。つまり、「代わりのもの」という意味で、かなり一般的に使われる英語単語としての存在です。
例えば、「車で5時間かかるよ」と聞かされて「他に方法はないの?」と言いたい時、”Is there an alternative(オルタナティブ)?” というような言い回しはかなり日常的に英会話で使われるといっていいでしょう。
〇 オルタナティブ投資
「オルタナティブ投資」という言葉を聞いた時、「代替投資」と直訳するのは間違いありませんが、むしろ「他のもろもろの投資」「新しい投資」というような直感的な理解をする方がもともとの語感に近いと思われます。
では、何が「本来」で何が「他のもろもろ」なのでしょうか。
投資の世界では、「本来」の投資は債券や株式を指します。債券や公開株式への投資は、欧州で何百年に及ぶ歴史を持ちます。「投資」と言えば債券や株式への投資と同義語だった時代が長かったのでしょう。そのため、従来の公開市場で取引される株式や債券は「伝統的資産」と言われています。それに対して、オルタナティブ投資は後発組といえます。オルタナティブ投資が出現したのはおしなべて第二次世界大戦後、そして本格化・大規模化したのは、1980年代ごろからだといっていいでしょう。オルタナティブ投資を「比較的最近商品化された形態の投資」と理解しても間違いないと思われます。
後発組の「他のもろもろの」オルタナティブ投資とは、不動産、美術品、さらにはオプション、コモディティ、未上場株、相対で取引されるローン証券、インフラストラクチャー案件への投資などが含まれ、これらの投資を運用のプロが行うファンドについては、ヘッジファンド、ベンチャーキャピタル、プライベート・エクイティファンド、プライベート・デット(ダイレクト・レンディング~ディストレスト・ファンド)、不動産ファンド、インフラ・ファンドなどがあります。
図表:オルタナティブ投資とは「債券・株式の伝統的投資以外の投資」
個別の投資対象とファンド投資の違いは、また別の機会に詳細を語りたいと思いますが、簡潔に申し上げると、その分野の運用のプロが最適な投資機会を選別し、分散投資を行うのがファンド投資といえるでしょう。
不動産や美術品の売買はかなり古い時代から行われていたはずですが、いわゆる投資商品としては後発組であり、オルタナティブ投資とされています。また、ヘッジファンドの中には公開株式に独自の考え方や複雑な戦略で投資するものもありますが、投資家目線ではそ
の直接的な投資対象はあくまでファンドであり、公開株式へ投資家が直接投資するわけではありません。
ベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティ・ファンドは、非公開株式(いわゆる公開市場で流通していない株式)に投資しています。家族や友人が始めた小さな会社に付き合いで少額出資した場合も「非公開株式」への投資になります。が、そうした非公開株式プライベート・エクイティファンドとを目的とするのがベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティファンドであり、そういったファンドは投資家目線で言えばオルタナティブ投資の部類に入ります。
〇 オルタナティブ投資を行うということ
なぜ、オルタナティブ投資をわざわざ伝統的な投資と区別する必要があるのでしょうか。なぜ投資は投資として、ひとくくりにしないのでしょうか。これには大きく二つの理由があります。
まず1つは、投資の結果であるリターンの特性の違いです。伝統資産はそれを取引する公開市場があり、その公開市場のリターンに大きく影響を受ける傾向があります。これをβ(ベータ)値が高い、または市場との相関関係が高い、と表現します。
一方でオルタナティブ投資は、そもそも当該資産の公開市場がないため、こうした公開市場との相関関係が低いのが特徴です。これまで「伝統資産」への投資を主要としていた機関投資家からすると、市場の影響度を抑えた投資を分散投資の一つとして組み入れる効果の観点から、伝統資産投資とオルタナティブ投資を区別してきたという背景があります。
つまり、「伝統的な投資以外にどれだけの金額の資産を振り分けるか」という視点でオルタナティブ投資を自然と見るようになっているのです。それに伴って、オルタナティブ投資商品も伝統的な投資商品とは区別されたものとなり、運用チームも販売チームも、投資会社や金融機関の組織内で特化されたチームとなっています。
オルタナティブ投資が区別されるもう一つの理由は、規制当局側の事情です。各国の行政機関は、常に投資家の資産を守るために、金融機関の組織や販売方法に規制を設けます。そもそも、特定の投資ができる投資家には様々な条件をつけています。これを「投資家保護」と言います。
規制当局は、投資家保護のために、様々な規制を設けます。例えば「投資は自己責任でお願いします」「ご自身の判断でお願いします」というような断り書きを目にしたことがあるかもしれませんが、これも規制に基づいて義務付けられているものの一つです。
投資家保護を目的とした規制は、伝統的な投資とオルタナティブ投資とでは、大きく異なります。オルタナティブ投資が市場でまず出現し、その特性を見越して法律規制がつくられました。また、投資家属性についても規制があり、各国規制当局によっても少しずつ異なるという事情もあります。
全般的に、オルタナティブ投資の方が、投資する側も、投資商品も、運用する側も販売する側も、多くの規制がかかります。その理由は投資に関する様々な情報が流通していなかったり、開示されている情報にも規制がかかっていなかったり、など様々なものがあります。こうした複雑な規制もあり、オルタナティブ投資が広く流通するには一定の時間がかかっていましたが、機関投資家が長期的運用方針の中でその投資効果を認識し、オルタナティブ投資への資産配分を増やす中で、オルタナティブ投資は年々その資産残高が上昇しており、世界で13兆米ドル(約1800兆円)の規模となり、今後もその拡大が予想されています(注1)。
(注1)出所:Preqin Forecast
次回はオルタナティブ投資の特徴についてお話していきましょう。
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